最近の論調として、農業者の老齢化や人手不足からロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)をめざすとともに、新規就農者等への栽培技術力の継承等を行うためのビッグデータの活用等に注目が集まっている。

ただしこのような注目が普通の農業者に起きているかというと研究機関・民間企業・大学等の動きほど波が起きていないのが現実ではないだろうか。それは農業者が抱えている課題や問題点について、研究機関・民間企業・大学等での理解や視点・考え方に少しのずれがあるからではないかと思う。

例えば、スマート農業の実現効果として、省力化で一日の作業時間が軽減されるとか人手不足の解消につながると説明されたとする。人手不足というのは、農業の問題だけではなく地域社会の現実であり、先ほど20n0年には人口が半減するとニュースになっていたとこである。すなわち人手不足というキーワードそのものが負のイメージであり、自分では解決できないものという潜在意識により人手不足の解消=無駄な努力と受け取ってしまうのである。

これを効率化や自動化により今の人員で規模拡大が可能となる、スマート農業はそのための投資であると説明するとどうだろうか? スマート農業で収量アップが可能というよりは、同じ労働(人×時間)で規模が拡大=収量アップ=売上増という前向きな思考の展開が可能となるのではないだろうか。

センシングやデータ等に基づく栽培・環境管理の最適化なんてことを説明しても、なかなか便利な温湿度計くらいにしか理解してもらえないが、だからといって農業者が非科学的かというと決してそうではない。農業者が今実践している科学的手法の延長線上で導入のメリットや目的を会話できれば、時として大学の研究室よりも高度な科学的見地の話が飛び出してくる。有機栽培のカリスマと会話すると実にデータによる分析と化学的根拠に基づいた話が聞けるものだ。ただカリスマは時として健康に関する教祖様になってしまうが・・・。

先日のシンポジウムで土壌診断後の土壌の様子経過についてモニタリングしたい旨の話をされていた方がいた。環境モニタリングで自動開閉とか自動灌水とかの話はよくされるが、農家としては、植物が栄養成長や生殖成長の切り替わりとして、温度や日長、肥料としての窒素の量とか、光合成の話として土中水分の変化やEC値の変動などとともにデータの意義や必要性とともに見方・使い方を聞きたいものであるのだ。

もちろんスマート農業の牽引車を担う方々はそのことを丁寧に説明されていることに間違いはないのだ。それなのに何故農業者にそれが伝わらないのか、注目されないのかである。農業の専門家(農学としてではなく生業)とITの専門家がそれぞれの知見や専門用語で会話していることにも課題がある。また、農業の課題等をまとめるときに農協や自治体が間に入ることにより、ポイントが整理され体系化され万人に分かりやすい表現になってしまうことにも課題がある。つまり農業現場とAIやIoT側を深くインテグレーションできるような仕組みができていないのだ。もちろん農業者においてのリテラシー不足が大きいことにも課題はある。

現場での導入が円滑に進むよう、農業者の積極的な参画の下での研究開発や農家へ技術を展開できる人材の教育育成が必要であり、そのための場の作りこみを行うことが急がれる。

そういう意味からも日本農業情報システム協会の責任は大きいのである。

株式会社自ゆう耕場 堀田一司