ほぼ30年に渡ってIT分野での仕事に関わってきました。
その中で、農業との接点といえば、自治体の地図システム上での土地利用規制などでのデータとして眼にする程度でした。
たまたま、県の農業総合試験場のファイルサーバの設置と運用管理を担うことになった事で、農業に関わる方々との接点を持つことになり、ちょうど施設園芸での栽培効率化を主題とする研究事業に誘われた所が始まりです。

このお誘いの理由は、その研究事業に係わる方々の中にITで生計を立てている方が見えず、たまたま、ファイルサーバの運用も順調に立ち上がり、試験場に設置された気象観測装置のデータをそのファイルサーバに同居させたWebサイトで試験場の要望に沿った形で表示させたという所が、一緒にできそうな安心感を醸成させた結果なのかと感じています。

そして、その研究事業の中で、農業の主たる部分で多くの情報があるにも関わらず、ITが活用されていないことに気づかされ、手伝える仕事がある事実を知った次第でした。
研究事業が施設園芸を対象にしたものでしたので、その流れで、施設園芸の生産者支援を目的に起業して現在に至っています。

起業当初は、まず、ソフトウェアだけで何ができるかという観点で、営農日誌の開発を始め、展示会でもそれをアピールしてみましたが、ぱっとしません。。何か方向性が違っているのかも。。。
という事で、幾人かの生産者さんの話を直接聞く機会に恵まれて、求められているものが何なのかをヒアリングした結果は、自分が栽培しているハウスの環境状態を知りたいというものでした。
そして、それを可能にする機器は既に市場にはあったのですが、それは、試すには高価で踏み出せないという所にありました。

そして、まずは市販のセンサー機器を利用して、スマフォやPCで見える環境を用意しました。当然ながらハウス環境をモニタリングできた事で評価は頂けましたが、機材はかさばり、移動するのも面倒な状況で、ちょっと薬剤散布するのも気を遣う状態です。 その為、中にはちょっと面倒なものが増えたなぁという見方をする人もいました。
少しだけ求められた所に近づいた気はしましたが、大事なのはセンサーの値をみることが目的では無いという事です。センサーが示す値から、するべき事を決めて、その結果、たくさん収穫できたり、良い品質の作物にして多くの収入を得る事が目的であって、それを達成する手段として提供できないといけない。。
そこにかかるコストとトレードオフして納得して頂けるものになるには、栽培支援できているかどうかを常に耳を傾け、目を向けて、できる限り寄り添い、一緒に開発している形が必要なのだろうと思うこの頃です。

生産者の方々との話をする機会が増える中で、土耕・ロックウール・水耕といった栽培方法の違い、イチゴ・トマト・ナスといった品目の違い、地域の違いにより、温度、湿度、CO2濃度といったハウス内環境に加えて、日射量や土壌の温度やEC、pH、水分量、外部の温度、湿度、風速など多様なデータを求められている事にも気づかされています。
そして、環境が自動的に計測されて眼に見えるようになると、カーテンや窓の開け閉めでおきる変化、ミストやボイラーをかける事で起きる変化も合わせて眼に見える事になります。
これが、作業日誌などに記録を残すイベントになれば、より記録することが簡便になる可能性もあり、これがひいては、品目や地域毎に栽培に関わる環境と作業の大きなデータアーカイブになっていくきっかけになればと思います。

生産者の方々は個々に研究者ではありますが、あくまで生業とする為に必要に駆られて試行錯誤をされています。 しかし、始めてから結果が出るまでにどうしても時間がかかります。
多くの仕事では、Googleなどで検索して同じような悩みを持つ人やその悩みを解決した人がオープンにしている情報で助けられる場合が多々あり、その結果がすぐに得られる事もしばしばです。それに比べると、農業に関わるデータの体系化というのは、遅れているように感じます。
農業における日本という国土に適したアーカイブを現実の生産者の方々の協力の元で構築していければ、今後、農業に携わる人々への協力なツールになっていくのではと考えています。

文責:株式会社IT工房Z 代表取締役 座光寺 勇