日本の農業の将来像を予見してみよう。

農業法人が増えてIT化が加速する

日本の農業者は高齢化に伴い、年々大きく減少の一途を辿っている。2030年には農業就業人口が現在の半数になるという予測もある。しかしながらその反面、広大な農地を使い、大規模に生産を行う農業法人が急増。今後もこの傾向は変わらず、耕作放棄地を活用してさらに増加していく。要するに、いままで経験と勘で行われて来た農業に限界が訪れると同時に、未曽有の課題が多く農業者に降りかかっている。
従って、IT農業やスマートアグリ、アグリテック、AI農業、スマート農業などと表現される次世代農業手法(以後スマート農業)が必須になる。

現在、日本の先端農業者が多く取り組んでいるのは、自分が長年培ったノウハウの明文化だ。農家を継ぐタイミングの多くが父親の他界であり、技術伝承がなされないまま後継者にバトンが渡されるシーンが多い。そのような結果になることを恐れ、後継者のために自分のノウハウを明文化しようと試行錯誤を繰り返している。しっかりと明文化がされていれば、先祖代々伝承されたその農家のノウハウが組み込まれたAIがなんらかの課題に遭遇し、選択の分岐点に立った農業者に対し、適切なアドバイスをしてくれる。

今後、農業法人がさらに大規模化を続けると、個々の企業ならではのノウハウ(筆者はこだわりと表現)が複数拠点に展開され、日本もしくは世界全土へフランチャイズ化されていく。こうして農業生産物も今後は地名に紐付いたブランドだけではなく、企業ブランドがどんどん出て来る。例えるならば、ドールやゼスプリのような企業である。

農作業においても今までのような重労働からは解放される。ロボットが圃場や施設の見回り、収穫、各種センシングによる自動制御など多くの作業の代替が可能になっているだろう。さらにはAIのさらなる発展により、ロボット同士が自律的に動作可能になり、人間の感覚値で行なっていた様々な作業をも担ってくれるようになる。

それと共存して、どうしても人間がしなければならない作業はアシストスーツを着ることで10分の1の力で実施でき、疲労から解放される。
また、カメラが匠の農業者の目の代わりになり、膨大な枚数の病気に関する情報をディープラーニングで得ているAIが写真を撮影したと同時に画像を解析、病気や害虫を確定し、農薬などの対処法についても適格にリコメンドする。衛星から得られる情報もフル活用し、作物の生育状況と過去の気候における生育結果、今後の天気予報などから最適な対処を常にAIが提案、複数の選択肢が無い場合は経営者の判断を待たずに実行してくれる。

農業関連のさまざまな情報もオープンデータ化が進み、グローバル観点での市況やニーズに基づいた生産(品種選定や生産量決定)が行えるようになるだろう。農家の一大イベントでもある作付計画も、輪作や連作、顧客納期などの情報を加味し、最適な品種を選定し、播種時期や育苗時期をシミュレーション、播種時期や定植開始日からの各種作業スケジュールも自動で作成してくれる。(作付コンシェルジュ:理事長造語)

日本の農業が世界に拡大していく未来

日本の農産物が安心・安全と謳われているのは日本の国土で作られているからではなく、日本人が生産していることに理由がある。この日本人の農産物の作り方を「日式農法」(理事長造語)として確率できれば、世界各国何処で生産しても日本の農産物と同じ、高いプライオリティで扱われるようになる。

農作物の品種改良においてもバイオテクノロジーのさらなる進化により成熟し、ゲノム編集が容易に行われ、現状栽培が困難なエリア(砂漠や南極・北極、船上、宇宙空間など)で生育可能な新品種の開発が盛んになる。その結果、世界的な人口増加による食料不足対策として日本のテクノロジーが活躍している。また、ジャパンブランド種苗が世界の種苗のシェアを塗り替えていると望ましい。スーパーにもトマトが一種類しか置いてないというシーンはなくなり、同じ作物でも用途に応じた複数の作物がラインナップされ、消費者の選択の幅が大きく増える。レシピもジャガイモではなく、男爵やメークインといった品種名で材料が書かれるのが当たり前になっている。

環境や生育以外のリスクとして考えられるのは、作業員によるミス、人による盗難や犯罪だ。これらは基本的に保険の対象外であり、農家の大きな痛手であるので、今後、人的被害に対する保険適用が進んでいく。また、今までタブーとされていた生産物の農家毎の品質情報が明文化され、受験における偏差値同様、自分が現在どの位置にいるか把握することで、あえて競争環境を作り、農家のスキルやモチベーション向上につながって行く。

ICT によって農業が“あこがれの職業”に!

将来的には、規制の面においてもさまざまな規制緩和が進んでいると予測される。農地の貸し借りや交換、異業種の農業参入がしやすくなるだろう。反面、耕作放棄地については持ち主が有効利活用に積極的に取り組まない場合は、固定資産税などの率を上げて行く。

AI の活用により、精緻に管理され生産された農産物は「スマートベジタブル」(理事長造語) として高付加価値で流通される。このようなICT だけでなく、経営にも精通した農家「スマートファーマー」(理事長造語)がどんどん育っていくであろう。

その結果、農業は「きつい・汚い・カッコ悪い」というイメージを脱却し、新3K「カッコ良くて稼げて感動がある」職業となるはずだ。最終的には、東大卒が選択する職業ランキングの1位に農業がなることを筆者は望んでいる。